賽ノ河原ブログ

日本語ラップと映画の話を淡々としています

爆発リスクを背負ったラッパー と コラテラル

ここに書くまで何千字、何万字、書き捨てて、前の2ページの記事をやっと書けたなんて言わなければ誰もわからない。
私が天才だったなら、その何千字、何万字をすっとばして、さらに10ページくらい書けているはずなんだと思う。
残念な事に、私は3ページ目を書き始めるのがやっとなのだ。
仕事が忙しいとか、朝早いとか、そういう類の言い訳を差し引いても書くのが遅い気がするので、一体何なんだろうと思う。
根がネガティブな私は前を向くとか自分と向き合うとかそういうポジティブな感情が苦い薬のように見えて仕方ない。
オブラートで包めば飲み込めるんだろうか?
ポジティブは劣等感への処方箋になってくれるんだろうか。
そんなこと考えていながら何となしにインパクトの凄い曲名を見つけたので再生してみた。

マンションにある3千枚の在庫CD
流通会社と実家合わせたら約1万枚
実家の在庫は畑のカラス除けに使用されてるからもう預けない


全く優しくない現実を目の前に引き出されると、どうしたのかと続きを聞いてみたくなってしまう。そんなリリックが冒頭を彩っていた。自嘲気味だけれど、ちょっとだけクスッと笑えるようなリリックだとも思った。頭からネガティブを爆発させている私の気持ちが少し和らぐような気がした。
音楽を聞いている時、私はあんまり論理的にものを考えない。大多数の人は、音楽を客観的には聞かないだろうし、自分の気持ちに届いてる言葉だからこそ耳を傾けるんじゃないかと思う。このリリックが主観的に響いてしまうような私は…多分やっぱネガティブなんじゃなかろうかって思う。

前回から私の映画の一部を持ち出すなら、私の将来が書いてあるフィルムのコマギレを光に当てたら火事になるなんて書いた。

あれは、ネガティブな気持ちで書いてるから、全然良い意味なんて無い。
そもそも光に当てるほどの人生でもなく、こんなことやって感想文書いて、そんなことに時間を使って、資格を持っている訳でもなく、仕事もそのうち出来なくなったら、最後は火の車じゃね?なんて皮肉を込めていた。

実のところ、最初、"爆発リスク"という言葉を見て、きっとこの人は自信があるからそう言うんだと思って聞いていた。
きっと狐火がどんなラッパーか知っていたなら、そうは思わなかっただろう。
だから、次のリリックを聞いたとき、物凄い勘違いをしていたことを思い知った。

ビニールに包まれ、中にプラスチック、歌詞カードの紙
家が火事になったらこのCD達どうなるんだろうか
きっと熱いリリックが込められているから良く燃えるんじゃないか
なんて、うまい事いらない
多分、3千枚も一気に燃えると爆発するんじゃないか
そしたら、俺も一緒に
CDと一緒なら本望だろ
なんて、そんなわけない


CDの巻き添えを食らって本望だなんて言ってみたりする自虐気味なリリックがそこにはあって共感してしまった。
なんとなく、私は「コラテラル」を思い出した。監督はマイケルマンだ。
一番最初に浮かんだのはタクシードライバーのマックスだった。マックスは語る夢こそあれど"リスク"を背負ってない人間だ。マックスの夢はタクシードライバーから卒業してリムジン会社を作る事だが、このリリックとは真逆の人生を歩んでいると思う。私は、マックスにも共感出来てしまう。だから、私はそのちょうど中間にいるのかもしれないと思ったのだ。
私には狐火のように何千枚もの在庫が無い。あったであろう昔の記事はまるで火事にあったかのように跡形もなく消してしまった。結局積み重ねたのは時間だけだ。それは仮の仕事だと言って12年もタクシードライバーを続けてるマックスのようだった。けれど、1ページも書かないで絵空事にしたのでは無い。私に今あるのはたった2ページの"爆発リスク"だ。2ページの爆発リスクと心中したいかって聞かれたら、確かにそれは御免である。
話は変わるが、コラテラルの一番印象に残っている言葉は殺し屋ヴィンセントの言葉だ。
マックスはこの殺し屋をタクシーに乗せてしまったが為に彼の仕事の巻き添えを食ってしまう。今まで"リスク"の背負った事の無かったマックスが彼のせいで"リスク"を背負わされるのだ。けれどマックスは何度も何度も"リスク"から逃げようとする。
そんなマックスにヴィンセントが突きつけた本質の言葉だ。

「鏡を見ろ。清潔な車、リムジン会社の夢、幾ら貯めた?"いつか夢が叶う"と?ある夜目を覚まして気づく。夢は叶う事なく自分が老いた事を。お前は本気でやろうとしてない。記憶の彼方に夢を押しやり、昼間からボーッとテレビを見続ける。リムジンの手付けぐらい払ったらどうだ?あの女への電話は?なぜまだタクシー運転手を?」


狐火のリリックはネガティブに感じてしまうのだけれど、それは弱い人が書いた言葉だからではない。結果論では示せない人生の軌跡がリリックにはある。リスクから逃げようとはせず、真向から鏡を見てリリックを書いている。それは、弱い人には出来ないからだ。むしろ、それは強さである。だから、27歳のリアルでも36歳のリアルでも、人の心を動かせるのは、付け焼き刃の知識ではなく現実と向き合った数だけあるリアルの言葉である。

「僕には出来ません」という言葉をビールとともに何度も飲み込んできた
その先に後悔なんて一度もなかった
だから、乾杯の度にビールにも感謝する

36才、この才は歳と共に積み重ねた才能の数
全く自信のなかった自分を信じた数
いつか去ってった背中を振り向かす


これは36歳のリアルからの引用だが、36年の月日数を重ね、信じた数だけある才能の数が生み出したのが3千枚の在庫なんじゃないかと思うと、その言葉を信じて見てもいいと思えた。そして、何よりその才がただ歳を重ねただけでは通常は生み出せないものだとも知る。リスクを背負うことなく日常を繰り返しているだけでは才は積み重ならず、ずっとそのままだからだ。

マックスはまだ救われている。ヴィンセントに指摘されたからだ。誰も向き合おうとする人がいなければ、鏡を見ることもしないし、自分の過ちに気付く術も無い。

本物のヒップホップが何かはわからない
ドリンクバーを取りに行く足取りで出社して
ドリンクバーをおかわりする感覚で残業している
ネクタイの長さが気になりながら一日を過ごす
自分には到底分からないのかも
でも、誰に否定されようが
何かを信じる事だとも思う

本物のヒップホップに命のリスクが重宝されるなら
オレは爆発リスクを背負ったラッパー
父親は刑務所あがり 母親は薬中じゃない二人とも普通の人
でも普通なのに自分達が行けなかったからって
頭の悪いオレを信じ大学まで出してくれた
オレの中の最高のヒップホップ

誰にでも色あせない思い出があって、心の中にしまっているみたいに、CDケースの中には思い出という火薬が詰められている。
この曲のリリックの中で、一番、狐火らしさを感じたところを書き出してみる。ヒップホップらしさというのが、私もなんなのか分からない。どうやったら手に入るのかも分からない。
仕事が忙しいとか、朝が早いとかそんな事に翻弄されてるけど、それが人生なんだけど…本物のヒップホップならという言葉にも翻弄され、自分を肯定していいのかもわからなくなる。だから、自虐気味に結末をどうせ火事にでもなってしまえなんて思ったのだけど、どうせ背負うなら、狐火みたいな爆発リスクの背負い方をしたいななんて思った。私の中のマックスは火事の巻き添えになるくらいなら、他人を巻き添えにするような爆発を起こせたら良いのになと思った。だったらと…タクシーのアクセルを思い切り踏み込んで走り出したいと思った。

ポジティブが善 ネガティブが悪
ならビジネスポジティブのオレは偽善
虎の威を借る狐のごとし
これは爆発のリスク 思い出の数が
キレイに彩る 虹色の狼煙
完成度は最高の3千枚の在庫
という爆発リスクを背負ったラッパー

引用

狐火「爆発リスクを背負ったラッパー」より歌詞引用

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コラテラル」よりセリフ引用
コラテラル (字幕版)